第8回:大学の運営・教育に関する諸問題

はじめに

 新型コロナウイルスは、大学における運営や教育にも大きな影響を与えている。緊急事態宣言中はもちろん、それ以前より、またそれ以降も、従来とは異なる対応が大学には求められている。以下では、大学の運営・教育に関する諸問題を概観してみたい。

 

コロナ禍における大学の自治

 緊急事態宣言、知事による感染防止のための協力要請、文部科学省より出されている通知や各種情報等は、基本的には強制力を伴わないものといえる。そのことから、コロナ禍における各大学の判断は大学の自治に基づく判断で、憲法上論ずべき点はないと評価できなくもない。

 しかしながら、この間の高等教育政策は、認証評価機関による評価の義務づけやガバナンス改革など、直接的な強制力を伴わず各大学の運営や判断に影響を及ぼしうる政策が進められている。非強制的あるいは誘導的な手法によっても大学の自治は影響を受ける可能性がある。そのため、要請という形式ではあるものの、大学の自治への影響については慎重に検討する必要がある。

 他方、大学内部における意思決定はどうか。大学の自治の主体としては、教授や研究者等の教員団による教授会が想定される。もっとも、国立大学法人法や学校教育法の改正以降、大学における意思決定は教授会自治からトップダウン型へとシフトしつつあり、学長との関係での教授会の位置づけも変容を被っている。

 入構制限やリモート講義への移行など研究や教育に関わる事項をも含む包括的な決定がトップダウンでなされている場合、教授会自治との関係での検討が必要となろう。

 関連して、感染防止の観点からリモートで教授会等を開催している大学も少なくないと推察できる。定足数との関係でリモートによる出席をどのように扱うか、また、リモートにおいて投票等をどのように扱うかなどの論点も指摘しておきたい。

 

公的教育費支出の低さと権利としての教育

 入構制限で大学生活を大幅に制限されていることなどから、学費減額あるいは学費返還を求める動きが複数の大学でみられる。大学の規模やこの間の対応が異なるため一般化は難しいが、大学の自治的な判断を前提とした、学生と大学双方が可能な限り納得できるような対応が求められよう。

 そのうえで、より本質的な問題として、日本における公的教育費支出の低さに触れておきたい。日本の公教育においては自己責任や受益者負担といった考えが根強く、学費や大学生活にかかる費用を学生ないしは家族が負担することが一般的である。関連して、給付型の奨学金も不十分で、大学生の2人に1人が奨学金を借りていることが以前より問題視されるなどしてきた。

 公的教育費支出の低さ、そして権利としての教育という視点を踏まえたうえで、学費減額あるいは学費返還の議論を検討すべきである。

 

リモート講義と教授の自由

 コロナ禍は、大学における教育にも大きな影響を与えている。大学におけるリモート講義は憲法上どのように評価できるか。特定のアプリケーションシステムや教育支援システム上での講義は教育効果について議論が集中しがちであるが、ここでは教授の自由との関係を指摘しておきたい。

 たしかに内容面に対する制約が生じているとは言い難いが、対面で行う講義とは形態が大きく異なること、講義によっては録画や録音をすること、さらに成績評価の方法にも影響を与えることなどから、リモート講義が教授の自由へ与える影響も検討すべき論点のひとつと思われる。

 

むすびにかえて

 コロナ禍は、大学運営から研究・教育に至る様々な場面で問題を生じさせている。もちろん、新たな問題として認識したうえで考察することも必要である。ただ、なかにはコロナ禍が収まることによっても解消しない問題もあることから、可能な限りこれまでの議論の延長線上に位置づけて検討することが重要である。

(安原陽平・獨協大学法学部准教授)

 

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