第5回:韓国における新型コロナウィルス対策

韓国における新型コロナの状況

 韓国では2020年1月20日に最初の新型コロナ感染者が確認された。その後2月下旬には、韓国南東部の大邱広域市において、宗教施設の礼拝でクラスター感染が発生し、全国的に拡大した。だが迅速な対応により、一時はほぼ終息しかけたが、5月中旬にはソウルのナイトクラブで大規模な感染がみられたり、また8月にはソウルの宗教施設の礼拝においてクラスター感染が発生している。韓国の保健福祉部のサイトによれば、2020年10月15日現在、2万4988名(うち隔離解除された者2万3082名、治療中の者1467名、死者439名)の感染者を出している。

 

韓国憲法における緊急財政経済命令

 大韓民国憲法では憲法37条2項において、「国民のすべての自由および権利は、国家の安全保障、秩序維持又は公共の福利のために必要な場合に限り、法律でこれを制限」することができるとしている。公共の福利のみならず国家の安全保障や秩序維持のためにも制限できる余地がある点が大きな特徴である。

 また、韓国の大統領は、憲法76条第1項で「内憂、外患、天災、地変又は重大な財政及び経済上の危機に際し、国家の安全保障又は公共の安寧秩序を維持するために緊急の措置が必要となり、国会の集会を待つ余裕がないときに限り、最小限に必要な財政及び経済上の処分を行い、又はこれに関して法律の効力を有する命令を発することができる」とし、緊急財政経済命令の権限を有している。そのため、今回の新型コロナ流行に際し、大邱市長が「緊急命令」の発動と支援を要請したことがあったが、政府は慎重な姿勢をとっており、発令していない(ただし、大邱と慶尚北道の一部の地域はその後、災難及び安全管理基本法に基づき「特別災難地域」に指定され、財政や医療などの特別支援の対象とされている)。

 

新型コロナに対する措置

 韓国では上記のような緊急財政経済命令は発令されず、2020年2月26日に国会は、「感染病の予防及び管理に関する法律(以下、感染病予防法)」「検疫法」「医療法」の改正案を通過させ(いわゆる「コロナ3法」)、改正法はそれぞれ2020年3月4日に公布された。

 感染病予防法では、第1級感染病や保健福祉部長官が告示した感染病に罹患した者は入院治療を受けなければならないとしているが(41条1項)、感染者が拒否した場合、1年以下の懲役又は1千万ウォン以下の罰金が科されることになった(79条の3第1号)。

 また感染病予防法では、49条1項において、「保険福祉部長官、市道知事又は市庁・郡守・区庁長は、感染病を予防するために次の各号に該当するすべての措置を行い、又はそれに必要な一部の措置をしなければならない」と規定しており、必要な場合は行政命令を出すことが認められている。たとえば、交通の遮断(1号)、集会等の制限または禁止(2号)、感染病の疑いがある者の隔離(14号)といったことが規定されている。こうした感染病予防法に基づき、韓国では、新型コロナの感染状況に合わせて、3段階別でのソーシャルディスタンスを確保するよう決定し、段階別に応じて店舗の営業などにも制限を加えることができるようになっている。

 検疫法では、感染病の発生状況や予防についての情報を知る権利と、国や地方自治体の施策に協力しなければならない義務が明文で追加され(3条の2第1号・第3号)、また空港や港湾、鉄道の駅や国境に国立検疫所が設置されることとなった(29条の7)。医療法では、医療関連感染を防ぐための監視システムを構築する(47条4項)といったことが規定された。

 

日本への示唆

 以上のように、韓国では新型コロナの対応においては、感染を食い止めるために政府が強行的な手段を採るようなことまではしておらず、既存の法律を改正して罰則を強化することなどで実効性を高めようとしているようにみえる。こうした政府の対応は、新型コロナの感染拡大の防止に尽力しようとすると同時に、立法府に対しても可能な限り配慮しようとしていることがうかがえる。現状では強制力を伴わない「要請」にとどめる日本にとって、韓国の取り組みは、どこまで効果が発揮されるか、またどのような問題が起こりうるか、注目してみる価値があるだろう。

 

(水島玲央・名古屋経済大学准教授)

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