第6回:ニュージーランドの緊急事態宣言

 2020年10月17日、ニュージーランドで総選挙が行われ、現職のアーダーン首相率いる与党が勝利した。ニュージーランドは新型コロナ対策が成功した例として欧米メディアから注目された国である。

 たしかにニュージーランドの対応は迅速であった。ニュージーランドは早くから外国人の入国制限に踏み切り、レベルに応じたアラートシステムを採用し、3月25日には緊急事態宣言を出した。

 それでは、どのような法制度に基づいて、そうした対策が実施されてきたのだろうか。以下では、緊急事態法制を中心にニュージーランドの新型コロナ対策を見ていくことにする。

 

アラートシステムと緊急事態宣言

 ニュージーランドの新型コロナ対策において重要な役割を果たしたのが、感染状況に応じて4つにレベル分けしたアラートシステムである。緊急事態宣言が出される少し前の3月21日、政府はアラートシステムを発表した。アラートシステムは、エピデミック対策法や民間防衛緊急事態管理法の他に、衛生法や諸々の命令などを根拠に作成したものであった。

 政府はアラートレベルを徐々に引き上げながら状況を注視し、3月25日にはアラート4になったとして、ただちに緊急事態宣言を出した。アラート4はロックダウンなどの措置を行う段階であり、政府は国民に対して原則自宅待機を命じた。

 今回発令された緊急事態宣言は2つに大別される。1つは、いわゆるアウトブレイク宣言である。これは2006年エピデミック対策法5条(1)に基づく。この宣言を出すことにより、総督(国王の代理として法律案の裁可等を行う)は保健相の勧告に基づいて保健相が管轄する一定の規制や要件を修正することができる。

 もう1つの緊急事態宣言は2002 年民間防衛緊急事態管理法に基づくものである。この規定は感染症に限らず、あらゆる緊急事態を対象にしたものである。緊急事態になると、民間防衛大臣が民間防衛緊急事態管理局長や同グループに対して次のような行為を行うように指示を出せる(84条)。たとえば、民間防衛緊急事態管理グループは救命や救助活動、食料、衣服、避難施設の供給、必要な交通規制、死体等の処理、必要な装備の供給などを行うことになっている。

 

新型コロナ公衆衛生対策法の制定

 緊急事態宣言の期限である5月13日に合わせて、政府はアラートレベルを2に下げると同時に、5月13日に新型コロナ公衆衛生対策法を制定した。同法は、アラートレベルが低く、緊急事態宣言が出ていない状態であっても効果的な対応を行うことを認める内容であった。つまり、緊急事態宣言を発令していなくても、隔離や立入などの強制的措置を実施するものであり、予防を強化する法律であるといえる。

 ニュージーランドは、早くから入国規制に踏み切ったこともあり、もともと感染者数がそれほど多くなかったことに加え、強い予防措置を行ったこともあり、6月8日、最後の感染者が無症状で48時間経過し、感染者が0になった。そのため、レベルも1まで引き下げられた。もっとも、8月11日には4人の陽性者が判明し、オークランドは翌日にアラートレベル3となり、それ以外の地域はアラートレベル2となった。その後、少しずつアラートレベルが下げられ、10月現在、全区域でアラートレベル1となっている。

 

日本への示唆

 以上の経過を見る限り、ニュージーランドは新型コロナを抑え込んでいる。アーダーン首相がリーダーシップを発揮し、当初から経済よりも生命と健康を重視した対策をとったことがその要因であるといわれているが、法的視点からすれば、民間防衛緊急事態管理法に基づく緊急事態宣言とそれを引き継いだ新型コロナ公衆衛生対策法の存在が大きい。これらにより、アラートレベルが高い段階でも低い段階でも、法に基づいて効果的かつ強力な措置を行うことが可能になっているからである。このようなレベルに応じた対応を行うための法制度は、日本にとっても参考になると思われる。

(大林啓吾・千葉大学法科大学院教授)

 

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