特別寄稿:フランス・スイスの緊急事態宣言

はじめに

 2020年9月29日(火)、国内外の識者を招いてのオンラインセッション「憲法はいかにCOVID-19に対応できるか?」が開催される運びとなった(詳細は本記事末尾)。オーガナイザーを務める筆者は、このたび縁あって本連載への特別寄稿をする機会を得た。そこで本記事では、上記オンラインセッションでも触れられる、強制力を伴う措置を行ったフランス及びスイスの緊急事態宣言を紹介し、日本と比較する。寄稿の機会をくださった大林啓吾教授、弘文堂担当者である登健太郎氏に御礼申し上げる。

 

フランスの緊急事態宣言

 フランスでは、2020年3月23日から7月10日まで「衛生緊急事態宣言」が発出された。従来から緊急事態法に依拠する「緊急事態」は存在し、直近では2015年11月のパリ同時多発テロ後2年に渡り、緊急事態宣言が発出されていた。しかし今回は、2020年3月23日の公衆衛生法改正により新たに整備された衛生緊急事態宣言が発出された。同宣言下では首相が、不要不急の外出制限、感染の疑いが高い人の隔離、商店等の一時休業、その他「衛生災害」を克服するために必要な措置を講じることができる。憲法16条は緊急措置権として、領土保全等が重大かつ直接に脅かされ、公権力の正常な運営が阻害される場合に、大統領が必要な措置をとることができると規定しているが、首相が発出する衛生緊急事態宣言との関連性は明らかでない。

 興味深いのは、衛生緊急事態宣言に先立つ3月17日に、首相が強制力を伴う外出禁止命令を発出したことである。通勤・通学・通院、生活必需品の買い物等を目的とした外出は認められたが、外出証明書を作成し携帯することが義務付けられた。違反者には135ユーロ(約17000円)の罰金が科された。この命令の根拠としては、感染症流行の際に保健相が必要な措置をとることを規定する公衆衛生法等が挙げられている。なお外出禁止は5月11日から段階的に解除されている。

 衛生緊急事態宣言は7月10日に解除されたが、現在は移行期間として、公共交通機関利用の際にマスクの着用が義務付けられ、違反者には135ユーロの罰金が科されるなど、措置が続いている。9月12日には、1日に確認された新規感染者数が過去最多の10,561人となり、今後のフランスの対応が注目される。

 

スイスの緊急事態宣言

 スイスでは、2020年3月16日から6月19日まで、感染症法に基づく緊急事態宣言が発出された。2012年に成立した感染症法は「特別事態」と「緊急事態」を規定しており、これらの事態下では従来強大な自治権を有する州の権限が制限される。経済又は公衆衛生に重大な影響をもたらす恐れがある際に宣言される特別事態下では、州と協議の上、連邦内閣が命令を発することができる。緊急事態下では、州との協議なく連邦内閣が必要な措置をとることができる。また憲法185条は、公共の秩序への脅威に対応するための命令を発する権限を連邦内閣に与えている。なお、特別事態は2月28日に宣言され、緊急事態宣言発出時を除き、現在(9月14日)まで継続されている。

 スイスでは、3月23日に不要不急の外出自粛が、特に持病を持つ人や65歳以上の人に要請されたが、強制力を伴う外出制限は行われなかった。ただ、3月20日から6月30日までは公共の場での6人以上の集会が禁止され、違反者には100スイスフラン(約12,000円)の罰金が科された。また、3月16日から4月26日まで食料品店や薬局を除く飲食店、娯楽施設等が閉鎖された。4月27日以降は、段階的な営業再開の許可、行動制限解除が行われている。

 

日本との比較

 フランス・スイスの事例には、日本との類似点及び相違点がある。類似点としては、緊急事態宣言後も国による措置が続いていることである。日本で緊急事態宣言解除後も都道府県をまたぐ移動自粛が要請されたことと類似しており、感染症対策が「平常時」と「緊急時」の二段階でなく複数段階で行う必要があることを示している。特に「特別事態」を有するスイスは、新型コロナウイルス感染症対策本部が設置され、都道府県知事が団体や個人に対し必要な協力を要請できる現在の日本と類似している(新型インフルエンザ等対策特別措置法24条9項参照)。

 日本との相違点としては、フランス、スイス双方が罰金を科す強制力のある措置をとったことが挙げられる。またフランス、スイスの憲法が国家緊急権に関する規定を有するのも日本との違いである。日本との憲法・法律や対応の違いを整理することで、感染症や緊急事態への各国の法的対応の特徴が明らかになる。

             

おわりに

 フランス・スイスの緊急事態宣言について述べてきたが、フランスにおける「衛生緊急事態宣言」や、スイスにおける「特別事態」、「緊急事態」と憲法の関係性など、様々な残された論点がある。本記事冒頭で触れた9月29日開催のオンラインセッション「憲法はいかにCOVID-19に対応できるか?」では、フランス・スイス・米国・日本のCOVID-19への対応について、各国憲法の視点から検討する。フランス・スイスを含めた他国の動向も含め、COVID-19への対応と憲法の関連性について理解を深めていきたい。

 

Tsukuba Global Science Week 2020 Session 6-2

「憲法はいかにCOVID-19に対応できるか?」

セッションウェブサイト:https://tgsw.tsukuba.ac.jp/update/session/395/

 

■日時 :2020年9月29日(火)14:30-18:00

■形式 :オンライン(要事前登録・参加費無料)

■言語 :英語(英日同時通訳有)

■登録締切 :2020年9月23日

■登録ウェブサイト :https://tgsw.tsukuba.ac.jp/participants/

■本セッションは「筑波⼤学新型コロナウイルス緊急対策に関する研究⽀援プログラム」の助成を受けています。

 

(秋山肇・筑波大学人文社会系助教)

 

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